ザ・ウイスキー・スタジオの10月の特集はアイリッシュウイスキーです。かつては世界で最も飲まれているウイスキーでしたが、ブレンデッドスコッチウイスキーに追い抜かれ、長い低迷期が続きました。今回は代表的なブランドをテイスティングしていきながら、復活を遂げつつあるこのウイスキーの魅力に迫ります。
長年の衰退から復活へ
ザ・ウイスキー・スタジオの10月の特集はアイリッシュウイスキーです。かつては世界で最も飲まれているウイスキーでしたが、ブレンデッドスコッチウイスキーに追い抜かれ、長い低迷期が続きました。今回は代表的なブランドをテイスティングしていきながら、復活を遂げつつあるこのウイスキーの魅力に迫ります。
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アイリッシュウイスキーはアイランド共和国及びイギリス(連合王国)を構成する一地域である北アイルランドで生産されるウイスキーです。世界最古の蒸溜所と言われるブッシュミルズ蒸溜所を始めに、現在40以上の蒸溜所が稼働中または計画中で今後も続いていく予定です。一時期の低迷期を乗り越えて再び脚光を浴びているアイリッシュウイスキーに今回スポットライトを当てていきます。
アイルランド共和国と北アイルランド
アイリッシュウイスキーがウイスキーの起源であるという説は根強く存在し、伝承によれば6世紀に中東を訪問したアイルランド修道僧が、香水を製造するための蒸溜技術を持ち帰った説や、1171年にイングランド王 ヘンリー2世がアイルランド侵攻の際に、家臣の報告書に「アイルランドで大麦から蒸溜した酒が飲まれていた」という記録からこれがウイスキーの起源として提唱されています。
余談ながらこのヘンリー2世の侵攻後、アイルランドは1922年の英愛条約までイギリスの支配下に置かれます。
厳密にはウイスキーの起源という点において、明確な表記は残念ながら見当たらないのですが、15~16世紀にはアイルランドではウイスキーが飲まれていたようです。その後、18世紀にアイルランドは一大ウイスキー産地となり、その需要の高まりによって、質より量を優先する蒸溜所も増えてきていました。それに対抗すべくイギリスは1759年に原料使用の法改正、1779年には収入税の算出方法の改定を実施しました。
結果として、1779年に存在した1228の登録蒸溜所は1821年には32の蒸溜所まで減少、小さな蒸溜所は税金の支払いを逃れるべく「地下に潜る」ことになりました。そのため、更に違法蒸留酒が市場に流通することとなったのです。そこでイギリスは1823年に免許制度の見直しが図られ、物品法が大幅に改定。この法律によってスコットランドの蒸溜所もザ・グレンリベットを始めとして認可蒸溜所が増えていきますが、アイルランドも同様で、1827年には82まで増えています。需要の高まりとして、ミドルトン蒸溜所では史上最大のポットスチル31,618ガロンを稼働させており、アイリッシュウイスキーは英国の海外市場のルートに乗り世界的なシェアを誇るようになりました。
19世紀、アイリッシュウイスキーの「ビック・フォー」はジョン・ジェムソン、ジョージ・ロー、ウイリアム・ジェムソン、ジョン・パワーズの4社を中心に麦芽と未発芽の大麦を混合しポットスチルで蒸溜されていたスタイルのウイスキーを販売していました。このスタイルはピュアポットスチルウイスキーと呼ばれ当時人気を博すことになりました。しかしながら、このピュアポットスチルウイスキーは現在、主要ブランドとしてレッドブレストとグリーンスポットの2ブランドくらいしか残っていないのはなぜでしょうか?
ウイスキーの歴史を振り返る時、イーニアス・コフィーのコフィー・スチル(連続式蒸溜器)はエポックメイキングでした。1832年にこの連続式蒸溜器の特許を取得したアイルランド人を「ビック・フォー」を含めたアイルランド人の蒸溜業者は嘲笑しました。なぜなら彼らには連続式蒸留器は必要なかったからです。
そこでコフィ―はスコットランドのウイスキー蒸留業者へ提供することを決断。というのも時代背景として、イギリス王室では1846年までトウモロコシを輸入できない法律が存在しており、これが撤廃されたことでアメリカから安価な原料を調達し、ニュートラルスピリッツ(グレーンウイスキー)を製造することができるようになったからです。ライトな味わいを求める嗜好の変化にも適応した、スコットランドのブレンデッドウイスキーがボディのあるポットスチルウイスキーからシェアを奪うことは難しいことではありませんでした。
コフィ―スチルは後、ニッカウイスキー仙台工場が採用した。コフィーにちなみ「カフェ式蒸留器」と呼ばれる
スコットランドでのブレンデッドウイスキーの誕生と成長、国内ではアイルランド独立戦争が勃発、連鎖的に英国経済圏からの締め出しとアメリカの禁酒法による輸出量の低下などの問題が山積し、アイリッシュウイスキーの生産規模が縮小していきます。
1966年にはわずかに残っていたジョン・ジェムソン、パワーズ、コークディスティラリーがIDC(アイリッシュ・ディスティラリー)として事業を統合、ミドルトン蒸溜所に事業を集中せざる得ない状況に追い込まれます。また、1972年には唯一残っていたブッシュミルズ蒸溜所とIDG(アイリッシュ・ディスティラリーズ・グループ)として合併。1社で2つの蒸留所のみが稼働する厳しい時代が続きます。しかしながら、1987年に独立系のク―リー蒸溜所が創業を開始し「ピーティー」なアイリッシュウイスキーをリリース。既存のアイリッシュウイスキーの味わいと異なるベクトルを示します。
クーリー蒸溜所がリリースするカネマラ
翌年にはペルノリカール社がIDCを買収。ジェムソンをペルノリカール社の基幹商品として世界的にプロモートを始めます。その流れによって1990年代以降、アイリッシュウイスキーの再評価の時代が始まることになりました。
ジェムソンがアイリッシュを牽引する
現在は、ポットスチルウイスキーだけではなくシングルモルトやブレンデッド、シングルグレーンなど多彩なラインナップを各蒸溜所はリリース。マイクロ蒸溜所が多く創業し今では20以上に。世界的なウイスキーブームの中、アイリッシュウイスキーも再び乱立の時代を迎えることになりました。
19世紀のビック・フォーだったジョージ・ローが所有していたトーマス・ストリート蒸溜所は最大級の生産量を誇っていたが、1926年に蒸留所を閉鎖し、隣接するギネス醸造所に組み込まれた。その数十年後、ギネスを醸造するディアジオによって、同敷地にジョージ・ローの名前を冠してRoe & Co distilleryを2019年に設立した
1980年のアイリッシュウイスキー法第におけるこのウイスキーの主な定義としては下記が挙げられます。
① 当該スピリッツは国内又は北アイルランド内において、穀物のマッシュであること。
② このモルトのジアスターゼによって糖化され、酵母の作用により発酵され、蒸溜液が用いられた材料由来の香り及び味を有する方法により94.8容量未満のアルコールに蒸留されたもの。
③ 木製の樽いおいて、国内の倉庫で3年以上もしくは北アイルランド内の倉庫で当該機関、または、国内(アイルランド)及び北アイルランド内の倉庫において合計3年以上の期間熟成されたもの。
<重要な点>スコッチウイスキーの原料は水及び発芽した大麦(モルトバーレー)ですが、アイリッシュウイスキーは穀物のマッシュとなっています。主にこの穀物は大麦麦芽以外にも、未発芽の大麦や、オート麦などを使用していることが大きな特徴でこの原料によって味わいの多様性を生み出すことに成功しています。
また、重要な点として、3回蒸溜が挙げられます。ポットスチルを用いたウイスキーの蒸溜工程には大きく分けて2回蒸溜と3回蒸溜の2種類がありますが、単純に3回蒸溜をすることで、2回蒸溜しても残る不純物が取り除かれ、より洗練でスムースな原酒に仕上がります。
アイリッシュは伝統的な3回蒸留が主流
2回蒸溜の場合は、初溜器をウォッシュスチル、再溜器をスピリットスチルと呼びますが、3回蒸溜の場合は、2番目の蒸溜器をフェインツスチル、3番目の蒸溜器をスピリットスチルと呼びます。通常1回目の蒸溜でローワインのアルコール度数は25%以上になり、2回目の蒸溜によってアルコール度数は70%程度まで上昇します。そこからもう一度蒸溜することで最終的なニューメイクのアルコール度数は80%以上に。この結果、アイリッシュウイスキーは全般的に飲みやすい傾向となり、アイリッシュコーヒーのようにカクテルにも応用できる酒質に仕上がります。
歴史で振り返ったように「ビック・フォー」によって評価を高めたスタイルは「ポットスチルウイスキー」という、大麦麦芽と未発芽の大麦を使用し、ポットスチルで蒸溜した、ミドルトン蒸溜所独自のスタイルでした。そのため現在でもミドルトン蒸溜所のレッドブレスト、グリーンスポットを味わうことができます。 現在は、ジェムソンが牽引するブレンデッドアイリッシュウイスキーが主流ですが、クーリー蒸溜所のカネマラやブッシュミルズ蒸溜所はシングルモルトをリリースしている。ザ・ウイスキー・スタジオの10月号ではブッシュミルズのシングルモルト10年がラインナップされているのでぜひテイスティングしてみて頂きたい。
アイリッシュウイスキーはその歴史の文脈上、1つの蒸溜所で複数のブランドを製造しています。その主要蒸溜所は下記のとおりです。
所有者:ペルノリカール 創業:1825年
1975年新ミドルトン蒸溜所が旧ミドルトン蒸溜所に隣接された。4種類のポットスチルを使い分けることで、ジェムソン・パディー・パワーズ・レッドブレスト・グリーンスポットなどのブランドをリリースしている。 特にジェムソンは圧倒的なシェアを誇ります。元々は1780年にジョン・ジェムソンがダブリン郊外で創業。原料の一部に未発芽大麦を使用し、ピートは使用せず3回蒸溜、まさにアイリッシュウイスキーの典型です。 また、ポットスチルウイスキーとして名高い「レッドブレスト」もこの蒸溜所で製造されています。大麦麦芽と未発芽麦芽で仕込まれ、シェリー樽をメインに熟成、ボディの厚みは一度体感して欲しい。
旧ミドルトン蒸溜所
ジェムソンの世界観を知ることができる
所有者:ホセ・クエルボ
創業は1608年。その理由は当時のイングランド王、ジェームス1世によってブッシュミルズ蒸溜所のあった、アントリム州の領主トーマス・フィリップ卿に世界で最初に蒸留免許を与えたことから。実際には1784年まで免許登録はされていない。現在の蒸溜所の原型は同年、仕込み水はセント・コロンバの泉。ピートを使用せず3回蒸溜することで滑らかな口当たりが特徴的。しかしながら、ブッシュミルズのブランドとして様々なシリーズをリリースしているので、実際にはアイリッシュウイスキー=口当たりがよいというイメージもブランドのポートフォリオとして払しょくしてくれる。
オールド・ブッシュミルズ蒸溜所外観
オールド・ブッシュミルズ蒸溜所内観
所有者:ビーム・サントリー
1987年に新設された蒸留所。ジョン・ティーリングが国営のアルコール製造工場を買い取り、稼働を始めた、ピートフレーバーが特徴的な「カネマラ」をリリース。アイリッシュウイスキーのプレミアムレンジを長年牽引しているのはこのカネマラとレッドブレストです。後に、ビーム・サントリーが原酒確保のため、買収するが、その際にティーリング一家は「ティーリング蒸溜所」を設立。オフィシャルは2015年に稼働したばかりだが、その長年の関係性から豊富な樽のストックを確保しており、ティーリングの名前で長期熟成のアイリッシュウイスキーがリリースされ、玄人を唸らせている。
所有者:ビーム・サントリー
長らく閉鎖をしていたが2007年に設立250周年と記念して創業を再開、1989年にクーリー蒸溜所によって買収、主に熟成庫として運用されてたが、現在は稼働を再開。
キルベガン蒸溜所
所有者:ジョン・ティーリング
首都ダブリンにて125年ぶりに新しい蒸溜所が2015年に誕生した。設立者は元々クーリー蒸溜所のオーナーであったティーリング家のジャックとステファン。3つの単式蒸溜器を備える。
ウイスキーの語源は実は、アイルランド語で命の水を意味するウシュク・ベーハー(uisce beatha)から派生したものをされています。そこからウイスキーの起源はアイルランドであるという説が有力です。
アイリッシュウイスキーとアメリカンウイスキーのラベルと日本やスコッチウイスキーのラベルでウイスキーの表記が異なるのはご存知でしょうか?
元々の命の水を意味する「Uisce beatha」の言葉のスコットランド語 とゲール語による派生の違いと言われていますが、どちらもウイスキーの「起源」であることを主張しているため今後も統一されることはないと思われます。アメリカンウイスキーのバーボンはアイリッシュ系移民の流れを汲んでおり「E」の表記がほとんど。逆に日本は竹鶴政孝氏が修行したスコットランドの影響から「E」のないウイスキー表記が主流とされています。
主にミドルトン蒸溜所で製造されブランドとしてはレッドブレスト、グリーンスポットの2つが知られている。ミント香りやシリアルのバランスもよく美味しいアイリッシュウイスキーです
アイリッシュウイスキーを代表する名ブランド。「繊細で滑らかで快いモルティネスがある」と専門家の間でも高く評価されています。原料大麦の穏やかな風味がいきているユニークなウイスキーです。
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